野球肩の原因と治療方法

    野球肩の原因と治し方

    野球肩とは、野球の投球動作によって引き起こされる肩の痛みの総称です。

    肩の筋肉や腱、関節にストレスがかかることで発生します。肩の構造に過度の負荷がかかり、炎症や損傷が生じるのが主な原因です。

    野球肩の種類

    野球肩は、その症状や原因によって複数の種類に分類されます。それぞれの種類は、投球動作の特定の局面や、解剖学的構造の違いに関連して発生します。

    肩峰下滑液包炎

    肩峰下滑液包炎は、肩峰の下にある腱板を保護する滑液袋(肩峰下滑液包)に炎症が生じる状態です。この滑液包は保護機能だけでなく、肩関節の円滑な動きにも寄与しています。繰り返しの投球動作による摩擦や衝突が、この滑液包に炎症を引き起こし、痛みを生じさせます。

    腱板損傷

    腱板損傷は、肩のインナーマッスルとして知られる腱板の損傷を指します。過度の使用や急激な力が加わることで、この重要な構造に損傷が生じることがあります。

    上腕二頭筋腱炎

    上腕二頭筋腱炎は、上腕二頭筋の腱部分が結節間溝を通過する際に生じる摩擦によって引き起こされる炎症です。繰り返しの動作がこの部位に負担をかけ、炎症を引き起こします。

    肩甲上神経麻痺

    肩甲上神経麻痺は、投球のリリース期に肩甲上神経が牽引されることで起こります。これにより、棘上筋などの筋肉に麻痺や筋力低下が生じる可能性があります。

    インピンジメント症候群

    インピンジメント症候群は、投球動作時に肩峰と上腕骨の間に筋肉や腱が挟まれたり、骨同士が衝突したりすることで起こる障害です。これにより、軟部組織の損傷や炎症が引き起こされます。

    上腕骨骨端線障害(リトルリーグ肩)

    上腕骨骨端線障害(リトルリーグ肩)は、15歳未満の成長期の選手に特有の障害です。骨端線閉鎖前の時期に、繰り返しの投球動作によって上腕骨近位端の成長軟骨に障害が生じます。投球時の上腕骨へのひねりのストレス、上肢への牽引力、そして関連する筋肉の張力による負荷が、成長軟骨部分に作用することで発生します。

    これらの障害は、それぞれ異なるメカニズムで発生しますが、いずれも適切な予防策と早期の対処が重要です。選手、コーチ、そして医療専門家が協力して、これらの障害のリスクを最小限に抑え、適切な治療を行うことが、選手の長期的な健康と競技生活の継続に不可欠です。

    痛みが生じるメカニズム

    野球肩の痛みや症状は、主に三つのメカニズムによって引き起こされます。

    まず、投球動作の繰り返しが大きな要因となります。投球動作は、コッキング期、加速期、リリース期という一連の動きで構成されますが、この過程で肩は内旋や外旋を繰り返し、また急激な加速や減速を経験します。これらの動きが頻繁に繰り返されることで、肩の筋肉や腱に過度な負荷がかかり、痛みや損傷を引き起こす可能性が高まります。

    次に、肩関節の安定性低下も重要な要因です。肩の腱板や肩甲骨周囲の筋力が低下すると、肩関節全体の安定性が損なわれます。この状態では、通常の動作でも肩関節に余分な負担がかかり、痛みや不快感を引き起こします。さらに、安定性の低下は投球フォームの乱れにもつながり、更なる症状の悪化を招く可能性があります。

    最後に、インピンジメント(衝突)現象も痛みの原因となります。これは、肩関節内で腱や筋肉が骨や他の組織と摩擦したり衝突したりする状態を指します。特に、投球動作中に肩を上げる際に起こりやすく、繰り返されることで炎症や組織の損傷を引き起こします。この状態が続くと、慢性的な痛みや可動域の制限につながる可能性があります。

    これらのメカニズムは相互に関連しており、一つの問題が他の問題を引き起こすこともあります。そのため、野球肩の予防や治療には、これらのメカニズムを総合的に考慮したアプローチが必要となります。

    野球肩の原因とは?

    野球肩の主な原因は下記の3つが考えられます。

    1. 投球数の過多

    野球において投手は試合や練習中に多数の投球を行います。特に若い選手やアマチュアレベルでは、適切な管理が行われないことも多く、必要以上の投球数が肩関節への負担を増大させます。

    長期にわたる過剰な投球は、肩の靭帯や腱に炎症を引き起こし、最終的には慢性的な痛みや機能障害につながることがあります。

    2. 不適切な投球フォーム(肘下がり)

    投球時に「肘下がり」というフォームを取ることは、肩に異常なストレスを加える一因となります。

    このフォームでは、肩を過度に外旋させる動作が必要となり、特に肩の前方にある構造(回旋筋腱板や肩前方の靭帯)に負担を大きくかけます。

    繰り返されるこの動作は、肩の不安定性や痛み、さらには慢性的な障害を引き起こすリスクを高めます。

    3. 股関節柔軟性の低下と体幹の安定性低下

    股関節の柔軟性が低下している場合や、体幹部の筋力が不足している場合、投球時の力の伝達が不十分となり、適切なフォームを保持できなくなります。

    肩や腕だけに力が集中してしまい、本来使用すべき腰や脚の力が効果的に使えないため、肩への負担が増加します。これにより、肩の損傷や痛みを引き起こす原因となり得ます。

    野球肩はどのような症状があらわれる?

    野球肩によく見られる症状は、肩の前部や外側に生じる痛みです。この痛みは投球後に特に強く感じられ、状態が悪化すると、投げる動作自体が困難になります。また、バッティングの際にも同様の痛みが生じることがあります。

    肩のこわばりも一般的な症状で、特に肩を外に回す動作時に動きが制限されることがあります。この制限は肩関節の外転や外旋動作時に顕著になり、日常生活にも影響を及ぼすことがあります。

    肩の弱さや筋力の低下は、痛みと並んで選手が抱える問題です。肩に力が入らない感覚や、一般的な動作での力の衰えが感じられることがあります。これにより、投球の精度や速度が落ちるだけでなく、痛みを引き起こす原因にもなります。

    また、肩の周囲には腫れや炎症が見られることもあり、これが痛みや動きの制限に直接的に影響を与えます。

    野球肩が進行すると、初期には投球後に痛みが増すだけであったものが、徐々に常時感じる痛みへと変わり、さらにはキャッチボールや塁間の送球が困難になるなど、投球能力に直接的な影響を及ぼします。

    これらの症状は適切な治療と管理を必要とし、早期の発見と対応が選手のキャリアを守るために重要です。

    野球肩をセルフチェックする方法

    野球肩かどうかを自分で判別するための簡単なセルフチェック方法をまとめました。

    これらのチェックは、肩関節の動きや柔軟性に異常があるかどうかを確認するのに役立ちます。ただし、これらのテストで異常が見られた場合は、専門機関で正確な診断を受けることをお勧めします。

    1. 肩関節の挙上テスト

    肩関節の挙上テストは、両腕を横に広げて天井に向かってゆっくり持ち上げることで行います。
    このテストでは、両肩が同じ高さまでスムーズに挙がるかどうかを確認します。

    もし両肩が同じ高さまで問題なく挙がる場合、肩関節に問題はないと判断できます。

    投球側の肩が非投球側に比べて十分に挙がらない場合や、挙げる際に痛みを感じる場合は、投球側の肩の挙上に制限があるか、何らかの問題が生じている可能性があります

    2.肩関節の捻転テスト

    肩関節の捻転テストは、両腕を前に出し、「前ならえ」の姿勢をとった後、両手の親指が下を向くように肩関節を内旋させることで行います。このテストでは、両肩が同じ程度に内旋できるかどうかを確認します。もし両肩が同じようにスムーズに内旋し、親指が均等に下を向く場合、肩関節の柔軟性に問題はないと判断できます。

    一方で、投球側の肩が非投球側に比べて親指が下に向かない場合や、内旋する際に不快感がある場合は、投球側の肩の内旋が制限されている可能性があります。これは肩の柔軟性が損なわれていることを示し、潜在的な障害や炎症の兆候である可能性があるため、さらなる診断や適切な治療が必要になることがあります。

    3.肩甲骨接触テスト

    肩甲骨接触テストは、柔軟性と肩の機能を確認するための方法です。このテストを行うには、一方の手を背中に回して反対の肩甲骨に触れるようにします。この動作を両肩で行い、それぞれの肩の柔軟性と機能を比較します。

    手が楽に反対の肩甲骨に触れる場合、肩の柔軟性に問題はないと判断できます。この結果は、肩関節が正常に機能しており、十分な可動域が保たれていることを示しています。

    しかし、投球側の肩が非投球側に比べて手が肩甲骨に届かない場合や、この動作を行う際に痛みが伴う場合は、投球側の肩の柔軟性が低下しているか、何らかの障害が存在する可能性があります。

    野球肩を放置するリスクとは?

    野球肩を放置すると、症状の悪化だけでなく、将来的により深刻な医療問題に発展するリスクがあります。

    野球肩の初期段階では、肩の痛みや不快感が主な症状ですが、これを無視して通常通りの投球活動を続けることで、肩の構造にさらなるダメージを与えることになります。

    腱炎

    最初は単なる肩の痛みや軽い腱炎かもしれませんが、反復するストレスにより腱の炎症が慢性化します。これにより、肩の動きがさらに痛みを伴い、制限されるようになります。

    腱板損傷

    腱炎が長期間治療されずに進行すると、肩の回旋筋腱板が部分的に、あるいは完全に断裂する可能性があります。このような損傷は、痛みを大幅に増加させ、肩の機能を顕著に低下させます。

    骨端線離開

    特に若いアスリートでは、骨の成長領域である骨端線が投球動作の繰り返しによって損傷することがあります。この状態が悪化すると、手術が必要になることもあります。

    症状を放置することは、アスリートのキャリアだけでなく、日常生活にも影響を及ぼす可能性があるため、野球肩を感じたら迅速に専門医の診断を受けることが最善の対策と言えるでしょう。

    野球肩の治療方法【当院のアプローチ】

    当院では野球肩の治療に独自のアプローチを採用しています。まず最初に行うのは、患者様の投球動作の全体的なチェックです。野球肩は、単に肩の問題だけではなく、足首の柔軟性、股関節の柔軟性、体幹の安定性、背骨の可動域、そして肩甲骨の可動域と安定性といった複数の身体部位の機能が連動して影響しています。これらの要素が適切に機能し、正しいフォームでの投げる動作が可能かを詳細に分析し、問題点を特定します。

    治療には、痛みのある肩に対して直接的な手技療法を施すことから始めます。この手技療法によって、肩周辺の筋肉の緊張を和らげ、血流を改善し、痛みを軽減します。さらに、超音波治療を用いた物理療法も組み合わせることで、深部の組織まで症状の改善を図ります。リハビリテーションプログラムでは、強化運動やストレッチを通じて、肩だけでなく全身のバランスと機能を向上させます。

    しかし、治療だけでは再発のリスクを完全には取り除けません。そのため、姿勢指導や投球フォームの矯正も重要な役割を担います。患者様一人一人の体型や癖を考慮し、最適な投球フォームを見つけることで、肩への負担を最小限に抑え、野球肩の再発を防ぎます。

    野球肩の予防方法

    野球肩は投球動作に伴う肩の障害であり、特に若いアスリートに多く見られます。この問題を予防するためには、正しい投球フォームの維持と適切なトレーニングの実施が不可欠です。

    正しい投球フォームのチェック

    指導者は、選手が正しい投球フォームで投げているかどうかを定期的にチェックし、必要に応じて調整を行うべきです。適切なフォームで投げることは、不必要な負担から肩を守り、効率的に力を伝えるのに役立ちます。

    投球数の管理

    特に若い選手の場合、投球数には細心の注意を払う必要があります。例えば、小学生の場合、1日70球とし、翌日は休息を取ることが推奨されています。連日投球する場合は、2日間の合計で105球以内に抑えることが望ましいです。これにより、成長期の選手の過度な負担を避け、スポーツ障害のリスクを減らすことができます。

    休息の確保

    十分な休息は、若いアスリートにとって非常に重要です。成長期の選手は特に、充分な休息を取ることで体の回復を促し、慢性的な疲労や障害のリスクを低減させます。

    有効なストレッチとエクササイズ

    野球肩を予防するためのストレッチには、肩関節だけでなく、足首や股関節、背骨の可動域を広げるエクササイズが含まれます。これらのストレッチやエクササイズは、全体的な身体の柔軟性を高め、投球時の負担を軽減します。具体的には、以下のような方法が効果的です。

    ストレッチの種類内容
    肩のストレッチアームサークルやウォールスライドなど、肩周りの筋肉を伸ばし、柔軟性を向上させます。
    足首と股関節のストレッチアンクルローテーション、ヒップサークルなど、下半身の可動域を広げる動作です。
    背骨の可動性エクササイズ背中を丸めたり反らしたりする動作で、脊柱の柔軟性を向上させます。
    チューブエクササイズレジスタンスバンドを使ったエクササイズで、肩や背中、腹部の筋肉を強化します。

    当院では患者さんの状況にあわせて、ストレッチやチューブを使った最適なエクササイズなのか見極めてお伝えしています。

    野球肩にお悩みの方、ぜひ一度お気軽にご相談くださいませ。