水泳肩の原因と治し方

水泳肩とは、水泳の動作により肩に生じる痛みを指します。肩の過度な使用や繰り返しの動作が原因で、肩の筋肉、腱、靭帯に負担がかかり、炎症や損傷が発生する状態です。特に、クロールやバタフライなど、肩を大きく使う泳法で発生しやすいのが特徴です。

水泳肩の痛みや症状は、肩のインピンジメント(肩峰と上腕骨の間にある腱や筋肉が圧迫される現象)、筋肉や腱の過度な使用、肩関節の不安定性によって引き起こされます。繰り返しの動作により、肩の筋肉や腱が摩耗し、炎症が生じることで痛みが発生します。

水泳肩の種類

水泳肩にはいくつかの種類があり、以下のように分類されます。

症状解説
肩インピンジメント症候群上腕を挙上・外転する際に、上腕骨と肩峰の間に腱板や肩峰下滑液包が挟まれます。これが繰り返し刺激されることで、滑液包に浮腫や出血が生じ、腱板が損傷します。
腱板損傷肩の棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋が損傷する状態です。
肩の不安定性肩関節が不安定であるため、動作中に痛みや違和感が生じます。
上腕二頭筋長頭腱炎力こぶを作る上腕二頭筋の付着部が炎症を起こす状態です。

リトルリーグショルダーとは水泳肩と同じものですか?

リトルリーグショルダーは、水泳肩とは異なる状態です。リトルリーグショルダーは、主に野球の投球動作によって発生する肩の痛みで、上腕骨近位骨端線の離開が原因です。これは、上腕骨の成長線(骨の成長が行われる部分)に過度な負担がかかり、損傷することで起こります。

一方、水泳肩は、水泳による肩の過度な使用や繰り返しの動作によって生じる肩の痛みや損傷を指します。これらの状態は原因や発生するメカニズムが異なるため、別の症状と考えられます。

水泳肩の原因

水泳肩の主な原因は、過度の肩の使用、不適切なフォーム、筋力の不均衡、そして柔軟性の不足にあります。

長時間の練習や頻繁な泳法による肩の過負荷が、炎症や損傷を引き起こす主要な要因となります。

さらに、背骨や胸郭をうまく使えず、体幹のローリングが不足した状態で泳ぐことは、肩に不自然な力を与え、負担を増大させます。

筋肉のバランスが崩れることによって、特定の筋肉や腱に過剰な負担がかかり、肩関節の機能が損なわれます。また、肩や背骨の柔軟性が不足していると、肩関節の動きが制限され、痛みが発生しやすくなります。

このように、これらの要因が複合的に作用することで、水泳肩が発生します。

水泳肩の症状

水泳肩には、いくつかの具体的な症状が見られます。

まず、最も一般的な症状として肩の痛みがあり、これは主にプル期やリカバリー期に発生します。

痛みの場所は肩の前面、上方、後面で、これらの部位に痛みを感じることが多いです。特に腕を上げる動作やリカバリーからプル期にかけて、痛みや可動域の制限が顕著になります。

さらに、腱板損傷や肩峰下滑液包炎、上腕二頭筋長頭腱炎などにより、肩周りに腫れや熱感が生じる場合があります。また、肩の筋力が低下し、泳ぐ際に左右のバランスが崩れることも報告されています。

水泳肩特有の症状としては、肩の前部での痛みが特徴的であり、特に泳ぎ終わった後に痛みが悪化することがあります。このため、練習後の休息時や次の練習に向けて肩の状態をチェックすることが重要です。

セルフチェックはできる?

水泳肩かどうかを判別するためには、いくつかのセルフチェック方法があります。

まず、肩の前面や外側に痛みがあるかどうかを確認してください。特に泳いでいる際や泳ぎ終わった後、肩を特定の方向に動かすと痛みが増す場合は、水泳肩の可能性があります。

次に、肩を上げる動作で不快感がないかチェックします。髪を結ぶ動作(結髪動作)や、エプロンの紐を結ぶ動作(結帯動作)で痛みや動きの制限を感じる場合も、水泳肩が疑われます。

さらに、肩の動きの中でクリック音や引っかかり感があるかどうかも重要です。これらの異常な音や感覚が動作中に感じられる場合、水泳肩の兆候である可能性があります。

水泳肩を放置するリスクとは?

水泳肩を放置すると、いくつかの深刻なリスクが伴います。

まず、症状が悪化すると、腱板が部分的に断裂する可能性があり、これにより痛みが慢性的になり、治りにくくなります。また、肩峰下に骨の棘(スパー)が形成されることがあり、これも痛みの持続につながります。

さらに、慢性的な痛みが続くと、日常生活に支障をきたし、肩を使う基本的な動作さえも困難になる場合があります。肩関節の不安定性が進行すると、さらに深刻な障害を引き起こすリスクが高まります。

加えて、肩周囲の筋肉が弱くなることで、他の関節にも負担がかかり、痛みや新たな傷害の原因となる可能性があります。このように、水泳肩を放置することは、全身の健康に悪影響を及ぼすリスクがあるため、早期の対処が重要です。

水泳肩の治し方

当院では、水泳肩を肩関節単体の問題として扱うのではなく、肩甲胸郭関節の可動性や胸椎、腰椎の可動性、体幹の安定性、股関節の動きなど、全身のバランスが肩の負担に影響を与えると考えています。

そのため、肩に負担なく泳げる体作りを目指し、全身を整えることが重要です。もちろん、肩関節に対する施術も行います。

治療方法は以下のように進めます。

詳細な診断と評価

肩の状態を詳しく診断し、個別の治療プランを作成します。

物理療法

冷却療法、温熱療法、超音波療法などを用いて、炎症や痛みを軽減します。

筋力強化とリハビリ

肩周囲や体幹の筋力を強化し、適切なフォームが保てるように筋肉の再教育を行います。

ストレッチと柔軟性向上

硬くなった関節や筋肉の柔軟性を改善するために、ストレッチや運動を指導します。

水泳肩の予防法

水泳肩を予防するためには、以下の方法を実践することが重要です。

適切なウォーミングアップとクールダウン

練習前には肩を十分にウォームアップし、筋肉や関節を柔らかくしておくことが重要です。また、練習後にはクールダウンを行い、筋肉の緊張を和らげることで、肩の疲労を軽減します。

正しいフォームの習得

正しい泳ぎのフォームを専門の指導を受けて習得することが、肩にかかる負担を最小限に抑えるために不可欠です。フォームが不適切だと、肩に過剰なストレスがかかり、ケガの原因となります。

定期的なストレッチと筋力トレーニング

肩周囲の筋肉をバランスよく強化し、柔軟性を保つことが重要です。以下のストレッチやトレーニングを取り入れると効果的です。

広背筋のストレッチ

水泳でよく使われる広背筋を伸ばすことで、肩の動きがスムーズになります。広背筋が硬くなると、肩の可動域が制限されることがありますので、しっかりとストレッチを行います。

体幹トレーニング

プル期やリカバリー期での体幹の安定性は非常に重要です。腹式呼吸やプランクなどの体幹トレーニングを取り入れることで、肩の負担を減らし、安定した泳ぎを実現します。

僧帽筋中部線維のトレーニング

肩甲骨を背骨側に安定させるための筋肉です。肩甲骨の安定性が不足すると、腕の動きが制限され、肩の障害につながる可能性があります。中部線維を強化することで、肩甲骨の安定性を高めます。

僧帽筋下部線維のトレーニング

背中の下部に位置し、肩甲骨の安定性を保つための筋肉です。肩甲骨の動きを助け、腕の動きをスムーズにします。中部線維同様に重要な役割を果たします。

これらの方法を実践することで、水泳肩の予防につながります。定期的なケアと適切なトレーニングを行い、肩の健康を維持しましょう。