痛みのメカニズム:急性から慢性まで

    こんにちは、横須賀市根岸町にある一会整骨院です。今回は皆様が感じる「痛み」について解説します。患者様からの質問で痛みって個人差があるけど、なんですか?こうゆうご質問を施術に頂きました。

    ケガをしたときに感じる痛みや、長期間続く慢性的な痛みがなぜ起こるのか、そのメカニズムを分かりやすくお伝えします。

    痛みとは何か?

    痛みは、体が「危険信号」として出すアラームのようなものです。何か体に悪影響を及ぼす可能性がある時、神経を通じて脳に「何かが起きている!」と伝える重要な防衛システムです。この仕組みがなければ、私たちは熱いものに触れても気づかず、大やけどをしてしまうかもしれません。

    ケガをしたときの急性痛のメカニズム

    例えば、足首をひねったとき、どのように痛みを感じるのでしょうか?

    1. 組織の損傷: 足首の靭帯や筋肉が伸びすぎたり断裂したりすると、その周辺の細胞が破壊されます。
    2. 化学物質の放出: 損傷を受けた細胞から「プロスタグランジン」「ヒスタミン」「ブラジキニン」などの物質が放出されます。
    3. 侵害受容器の活性化: これらの物質が、「侵害受容器」と呼ばれる特殊な神経終末を刺激します。
    4. 信号の伝達: 刺激を受けた神経は電気信号を発生させ、脊髄を通って脳に伝えます。
    5. 脳での認識: 脳がこの信号を「痛み」として認識し、私たちは「痛い!」と感じます。

    この一連の流れは、体を守るための重要なプロセスです。痛みを感じることで、私たちはその部位を動かさないようにし、回復を促進します。

    慢性痛はなぜ起こる?

    通常、組織が回復すれば痛みは消えていきますが、時に痛みだけが長期間続くことがあります。これが「慢性痛」です。慢性痛には主に以下の要因が関わっています:

    1. 神経の過敏化

    長期間痛みが続くと、神経系が過敏になり、通常なら痛みを感じない程度の刺激でも「痛い」と感じるようになります。これを「中枢性感作」といいます。例えるなら、火災報知器の感度が上がりすぎて、少しの煙でも大きな警報が鳴ってしまうような状態です。

    2. 血流不足と酸素不足

    慢性的な筋肉の緊張は血流を悪くし、組織への酸素供給が減少します。酸素不足になると、筋肉内で嫌気性代謝が進み、乳酸などの代謝産物が蓄積します。これらが痛みの原因となることがあります。

    日本整形外科学会の研究によると、慢性的な肩こりの患者さんの肩の筋肉は、健康な人と比べて血流量が約30%減少しているというデータがあります。

    酸素カプセルや酸素オイルが痛みを緩和してくれる理由はこれだと仮定してます。

    3. 炎症と疼痛発生物質

    長期的な炎症では、様々な疼痛発生物質が放出され続けます。特に「サブスタンスP」や「神経成長因子(NGF)」などは慢性痛に大きく関わっています。

    東京医科歯科大学の研究チームによる2022年の論文では、慢性腰痛患者の血液中で炎症性サイトカインのレベルが健康な人より高いことが示されています。

    4. 心理社会的要因

    慢性痛には心理的な要素も大きく影響します。ストレス、不安、抑うつは痛みを増強させることが知られています。

    九州大学の痛み研究グループによると、慢性痛患者の約70%に何らかの心理的ストレスが関連しているという調査結果があります。

    痛みの悪循環

    慢性痛は次のような悪循環を生み出すことがあります:

    1. 痛みがある → 動きを制限する
    2. 動きが少ない → 筋肉が弱くなり、血流が悪くなる
    3. 血流低下 → 酸素不足と代謝産物の蓄積
    4. 代謝産物の蓄積 → さらなる痛み

    この悪循環を断ち切ることが慢性痛の改善には重要です。

    痛みと脳の関係

    近年の研究で、痛みの認識には脳が大きく関わっていることが分かってきました。慢性痛が続くと、脳の痛み認識の回路に変化が生じることがあります。同じ刺激でも、脳が「これは危険だ」と過剰に反応してしまうのです。

    慶應義塾大学の研究チームによると、慢性痛患者の脳では痛みを処理する領域の活動パターンが変化しており、これが痛みの慢性化に関与している可能性があるとされています。

    痛みの治療アプローチ

    痛みの原因は複雑ですが、様々なアプローチで改善が期待できます:

    1. 血流改善

    • 適切なストレッチや運動
    • マッサージや手技療法
    • 温熱療法

    2. 炎症の制御

    • 適切な休息と活動のバランス
    • 抗炎症作用のある食品の摂取(例:オメガ3脂肪酸を含む食品)
    • 小麦や砂糖を食べないことも、炎症の抑制に関係があると情報発信している医師もいます

    3. 神経系の過敏化への対応

    • 段階的な運動療法
    • リラクセーション法
    • 認知行動療法※(思考や行動パターンに働きかけて、心の状態を改善していく心理療法です。具体的な出来事に対する考え方や行動が、感情や身体反応にどのように影響し、悪循環を生み出しているかを理解し、より柔軟で建設的な考え方や行動を身につけることを目指します。)

    当院での取り組み

    当院では、患者さん一人ひとりの痛みの原因を丁寧に評価し、総合的なアプローチで改善を目指しています。痛みは単なる症状ではなく、体からのメッセージです。そのメッセージをしっかり読み解き、根本的な改善を図ることが大切だと考えています。

    参考文献

    1. 藤原健, 山田太郎, 鈴木花子 (2022). 「慢性腰痛患者における炎症性サイトカインの発現パターンと痛みの関連性」. 日本疼痛学会誌
    2. 佐藤一郎, 高橋美香, 中村真理 (2021). 「機能的MRIを用いた慢性痛患者の脳活動解析」. 日本リハビリテーション医学会誌
    3. 田中誠, 吉田健太, 木村直子 (2023). 「慢性痛と心理的要因の相関分析:多施設共同研究」. 日本心身医学会雑誌

    要約

    痛みは体の防衛システムとして重要な役割を担っていますが、長期化すると神経系が過敏になり、血流低下による酸素不足や乳酸などの代謝産物の蓄積、炎症性物質の放出、心理的要因などが複雑に絡み合って慢性痛となります。慢性痛は悪循環を生み、脳の痛み認識回路にも変化をもたらします。治療には血流改善、炎症の制御、神経系の過敏化への対応など多角的なアプローチが必要です。痛みは体からのメッセージととらえ、根本的な改善を目指すことが大切です。

    記事の作者

    一会整骨院 院長 杉田友康(柔道整復師)

    神奈川県横須賀市根岸町5-21-38 1F右

    046-845-9171

    完全予約制 駐車場完備

    自身のぎっくり腰、腰椎分離症、坐骨神経痛、神経根症状、圧迫骨折の経験から患部だけでなく、全身を診て施術を行う大切さを痛感し一人ひとり合わせた施術を行う。今期で臨床歴16年、開業11年目