知られざる腰痛の原因「仙腸関節機能不全」とは?症状から治療法を解説

    腰痛にお悩みの方の中で、「腰の一点が痛む」「座っていると痛みが増す」「朝起きるときに痛む」といった症状をお持ちの方はいらっしゃいませんか?もしかするとその痛み、仙腸関節機能不全が原因かもしれません。

    実は、腰痛の4人に1人は仙腸関節に問題があると言われており、仙腸関節の痛みは腰痛全体の約15-25%を占めるとされています。しかし、この疾患は見落とされがちで、多くの患者様が適切な診断を受けられずに悩んでいるのが現状です。

    仙腸関節とは?

    仙腸関節は、骨盤の骨である仙骨と腸骨の間にある関節で、周囲の靭帯により強固に連結されています。この関節は脊椎の根元に位置し、画像検査ではほとんど判らない程度の3~5mmのわずかな動きを有しています。

    日常生活の動きに対応できるよう、ビルの免震構造のように根元から脊椎のバランスをとっている重要な関節です。一見すると動かない関節のように見えますが、実際には体の動きに合わせて微細な動きをしており、上半身と下半身をつなぐ重要な役割を担っています。

    仙腸関節機能不全の症状

    主な症状

    仙腸関節機能不全の症状は多岐にわたり、他の腰痛疾患と間違えられやすいのが特徴です。

    痛みの特徴:

    • 腰痛や臀部痛、鼠径部痛あるいは下肢痛
    • 仙腸関節付近を中心とする腰殿部痛で、下肢への神経根障害に一致しない関連痛
    • 下腹部から股関節にかけての痛み
    • 腰の一点を指で示せるような限局的な痛み

    日常生活での症状:

    • 立ちっぱなしや階段の昇り降りで痛みが悪化
    • 座っている時間が長いと痛みが増加
    • ぎっくり腰のように急激に痛みが出ることもあれば、長期間慢性的に痛みが続くこともあります
    • 朝起きる時の痛みやこわばり
    • 痛みが無くても、腰やお尻のこりや違和感、あるいは動きの悪さ

    発症の原因

    中腰での作業や不用意な動作、あるいは繰り返しの負荷で関節に微小な不適合が生じ、痛みが発生します。

    具体的には以下のような要因があります:

    • 腰をひねる、脚を前後に大きく開く、中腰での作業、外傷などによって、骨盤に偏った負荷がかかること
    • 骨盤に左右非対称の力が加わることがリスク要因となるため、いつも重い鞄を決まった側の肩にかけている、座るときに脚を組む癖があるといった方は、発症リスクが高くなる
    • 女性の場合は生理周期や出産によって発症することもあります

    他疾患との鑑別診断

    仙腸関節機能不全は、他の腰痛疾患と症状が似ているため、正確な診断が重要です。

    腰椎椎間板ヘルニアとの違い

    腰椎椎間板ヘルニア(坐骨神経の場合):

    • 脊髄神経が圧迫されることで起こる
    • 神経の走行に沿った明確な放散痛(坐骨神経痛)
    • 足の筋力低下や感覚障害を伴うことが多い
    • 前かがみ姿勢で痛みが増強

    仙腸関節機能不全:

    • 下肢への神経根障害に一致しない関連痛が多い
    • 神経症状(しびれ、筋力低下)は基本的にない
    • 座位や起立時に痛みが増強することが多い

    坐骨神経痛との違い

    坐骨神経痛:

    • 腰から足にかけての明確な神経の走行に沿った痛み
    • 電気が走るような鋭い痛み
    • 咳やくしゃみで痛みが増強

    仙腸関節機能不全:

    • 痛みの範囲が神経分布と一致しない
    • 鈍痛や重だるさが特徴的
    • 関節の動きに関連した痛み

    脊柱管狭窄症との違い

    脊柱管狭窄症:

    • 歩行時に症状が悪化し、休憩で改善する「間欠跛行」
    • 前かがみ姿勢で症状が楽になる
    • 両下肢の症状が多い

    仙腸関節機能不全:

    • 歩行による明確な症状変化は少ない
    • 姿勢による痛みの変化が特徴的
    • 片側性の症状が多い

    診断方法

    3つ以上の身体検査(誘発テスト)で陽性反応が出ることで仙腸関節機能不全が疑われ、局所麻酔による仙腸関節ブロックも診断確定に有用とされています。

    当院では以下の検査を行います:

    1. 問診・視診: 症状の特徴や発症経緯の確認
    2. 触診: 仙腸関節周辺の圧痛点の確認
    3. 各種誘発テスト:
      • ニュートンテスト
      • ガエンスレンテスト
      • パトリックテスト
      • 仙腸関節離開テスト など
    4. 動作分析: 日常動作での痛みの変化を確認

    当院で行う仙腸関節機能不全に対する徒手療法

    最新の研究では、仙腸関節機能不全に対する徒手療法の有効性が科学的に証明されています。

    エビデンスに基づく治療効果

    徒手療法介入は仙腸関節機能不全に伴う痛みと障害を軽減するのに効果的で、徒手療法(マニピュレーション)が最も効果的なアプローチであることが系統的レビューで示されています。

    徒手療法は仙腸関節機能不全症候群に対して長期的に効果的で、仙腸関節への特異的な運動を仙腸関節マニピュレーション治療に加えることでさらに効果が増大するという研究結果も報告されています。

    当院の治療アプローチ

    1. 関節モビライゼーション・マニピュレーション

    • 仙腸関節の微細な動きの改善
    • 関節包の緊張緩和
    • 痛みの軽減効果

    2. 筋膜リリース

    • 仙腸関節周囲の筋膜の癒着改善
    • 大殿筋、梨状筋、腸腰筋などの調整
    • 血流改善による治癒促進

    3. 深層筋の調整

    • 骨盤底筋群の機能改善
    • 多裂筋、回旋筋などの深層安定筋の活性化

    4. 骨盤アライメントの調整

    • 骨盤の歪みの修正
    • 左右バランスの改善
    • 全体的な姿勢の調整

    5. 運動療法・セルフケア指導

    保存的治療は患者教育、骨盤安定化、徒手療法を組み合わせた多面的なプログラムから構成されるとされており、当院では以下を提供します:

    安定化エクササイズ:

    • コアマッスル強化
    • 骨盤周囲筋の安定性向上
    • 日常動作の改善指導

    ストレッチング:

    • 股関節周囲の柔軟性改善
    • 腰背部の緊張緩和
    • 自宅でできるセルフケア方法

    治療期間と経過

    個人差はありますが、多くの患者様で以下のような経過をたどります:

    初期(1-2週間):

    • 急性期の痛みの軽減
    • 日常生活動作の改善

    中期(2-6週間):

    • 関節機能の正常化
    • 筋力・柔軟性の改善

    維持期(6週間以降):

    • 再発予防のための継続的なケア
    • セルフメンテナンス能力の向上

    日常生活での注意点とセルフケア

    避けるべき動作

    • 重い物を片手で持ち上げる
    • 長時間の同一姿勢
    • 急激な体幹回旋動作
    • 脚組み座りの習慣

    推奨される日常習慣

    • 定期的な姿勢変換
    • バランスの良い筋力トレーニング
    • 適度な有酸素運動
    • 正しい身体の使い方の習得

    まとめ

    仙腸関節機能不全は、適切な診断と治療を行えば改善が期待できる疾患です。仙腸関節痛を患う患者は慢性疾患の中でも最も低い生活の質スコアを報告しているとされるほど、患者様の生活に大きな影響を与える疾患ですが、最新の研究に基づいた治療法により、多くの方が症状の改善を実感されています。

    もし上記のような症状にお悩みでしたら、一度専門的な評価を受けることをお勧めします。当院では、エビデンスに基づいた最新の徒手療法技術と、患者様一人ひとりに合わせた治療プログラムで、仙腸関節機能不全の改善をサポートいたします。

    お気軽にご相談ください。一緒に痛みのない快適な生活を目指しましょう。

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    • 日本仙腸関節研究会:仙腸関節障害について
    • Kiapour A, et al. Effectiveness of Exercise Therapy and Manipulation on Sacroiliac Joint Dysfunction: A Randomized Controlled Trial. J Manipulative Physiol Ther. 2019
    • Salari N, et al. The Efficiency of Manual Therapy and Sacroiliac and Lumbar Exercises in Patients with Sacroiliac Joint Dysfunction Syndrome. J Clin Med. 2021
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    • Agarwal A, et al. Sacroiliac Joint Dysfunction: Diagnosis and Treatment. Am Fam Physician. 2022