変形性膝関節症と筋力低下の関係 – 50代女性の治療成功事例

    こんにちは、神奈川県横須賀市根岸町にある一会整骨院の杉田です。今回は、当院で改善に成功した50代女性の変形性膝関節症の症例をご紹介したいと思います。この患者様は左膝に痛みを抱えていましたが、その原因が右ももの筋力低下にあることがわかりました。適切な治療とトレーニングを行うことで症状が大幅に改善した事例を通して、改めて変形性膝関節症のメカニズムや対策法についてお伝えしていきます。

    目次

    1. 変形性膝関節症とは
    2. 変形性膝関節症の進行過程
    3. 膝の痛みと反対側の筋力低下の関係
    4. 当院での治療事例 – 50代女性の左膝痛改善
    5. 変形性膝関節症の予防と対策
    6. おわりに – 早期発見・早期治療の重要性

    変形性膝関節症とは

    変形性膝関節症(膝OA:Knee Osteoarthritis)は、膝関節の軟骨がすり減り、関節の動きに支障をきたす疾患です。日本では推定約2,500万人が罹患しており、特に50代以降の女性に多く見られます。

    変形性膝関節症の主な症状には以下のようなものがあります:

    • 歩き始めや長時間の歩行後の膝の痛み
    • 階段の上り下りでの痛み
    • 正座や立ち上がりなどの動作時の痛み
    • 膝関節の腫れや熱感
    • 膝の曲げ伸ばしがスムーズにできない(可動域制限)
    • 膝から「ゴリゴリ」「バキバキ」といった音がする

    多くの方は、これらの症状を「年齢のせい」「歳をとれば仕方ない」と諦めてしまいがちですが、適切な治療とケアによって症状の改善や進行の抑制が可能です。当院での治療事例からもわかるように、原因を正確に見極め、適切なアプローチを行うことが重要なのです。

    変形性膝関節症の進行過程

    変形性膝関節症は一朝一夕で発症するものではなく、長い年月をかけて少しずつ進行していきます。進行のスピードには個人差がありますが、一般的には以下のような段階を経ていきます。

    前駆期(5〜10年)

    この段階では、明確な症状はありませんが、わずかな軟骨の変化や微細な損傷が始まっています。日常生活に支障はなく、レントゲン検査でも異常は見られないことが多いですが、将来的な関節症のリスク因子(肥満、過度の運動負荷、下肢のアライメント異常など)が存在することがあります。

    初期(発症から1〜2年)

    軽度の痛みや違和感が現れ始めます。特に長時間の歩行後や階段の昇降時に痛みを感じることがありますが、休憩すると改善することが多いです。レントゲン検査では、わずかな関節裂隙の狭小化(軟骨の摩耗による隙間の減少)が見られることがあります。

    中期(発症から3〜5年)

    日常生活に支障をきたすようになります。痛みが増し、膝の曲げ伸ばしにも制限が出てきます。レントゲン検査では明らかな関節裂隙の狭小化や骨棘(こっきょく:骨の縁に形成される棘状の突起)の形成が見られるようになります。

    後期(発症から5〜10年以上)

    重度の痛みと機能障害が生じ、日常生活が著しく制限されます。膝の変形が目に見えるようになり、歩行困難な状態に陥ることもあります。レントゲン検査では、関節裂隙のほぼ消失、骨棘の増大、軟骨下骨の硬化などが見られます。

    日本整形外科学会の報告によると、変形性膝関節症の進行速度には大きな個人差があり、10年以上かけてゆっくりと進行するケースもあれば、数年で急速に悪化するケースもあります。特に以下の因子は進行を早める可能性があることが知られています:

    • 肥満(BMI 25以上)
    • 過度の膝への負担(長時間の立ち仕事、重労働など)
    • 膝の外傷歴(半月板損傷、靭帯損傷など)
    • 筋力低下(特に大腿四頭筋)
    • 下肢のアライメント異常(O脚、X脚など)
    • 加齢
    • 遺伝的要因

    東京大学の研究グループによる日本人を対象とした追跡調査では、初期段階の変形性膝関節症患者の約30%が5年間で中期から後期へと進行したことが報告されています。この研究では、特に女性、肥満者、そして日常的に膝を使う職業に就いている人での進行が速いことが示されました。

    膝の痛みと反対側の筋力低下の関係

    多くの方が見落としがちな重要なポイントとして、「膝の痛みと反対側の筋力低下の関係」があります。今回ご紹介する50代女性の患者様も、左膝の痛みの原因が右ももの筋力低下にあることがわかりました。なぜ、反対側の筋力が関係するのでしょうか?

    バイオメカニクス(生体力学)の観点から

    人間の歩行は、右足と左足が交互に働くことで成り立っています。片方の足に問題があると、自然と反対側に負担がかかり、バランスが崩れます。日本スポーツ整形外科学会の研究によると、膝関節症患者の約60%が反対側の下肢にも筋力バランスの異常が見られるという報告があります。

    具体的には以下のようなメカニズムが考えられます:

    1. 交差性抑制(クロス・インヒビション): 神経生理学的な現象で、片側の筋肉が過度に緊張すると、反対側の筋肉が抑制される現象です。右ももの筋力が低下すると、左側への負担が増大し、結果的に左膝に痛みが生じます。
    2. 歩行パターンの変化: 右足の筋力が低下すると、歩行時の重心移動が不均衡になり、左膝への衝撃が増大します。特に階段の昇降や不整地での歩行時にこの影響は顕著になります。
    3. 代償動作の発生: 右足の筋力不足を補うために、無意識のうちに姿勢や動作を変えてしまい、それが左膝への異常な負荷として現れます。

    慶應義塾大学の研究チームによる2022年の研究では、片側の大腿四頭筋の筋力低下が、反対側の膝関節への負担を約30%増加させることが生体力学的分析から明らかになっています。

    当院での治療事例 – 50代女性の左膝痛改善

    ここからは、当院で実際に改善に成功した50代女性の治療事例をご紹介します。

    患者様のプロフィール

    • 50代後半の女性
    • 主訴:左膝の痛み(特に階段の昇降時と長時間の歩行後)
    • 症状の経過:約1年前から徐々に痛みが増してきた
    • 日常生活:介護関係の仕事、週末は買い物や軽いハイキングを楽しむ
    • 既往歴:特記事項なし
    • BMI:23.5(標準範囲内)

    初診時の状態

    初診時、患者様は左膝の前面および内側部に痛みを訴えていました。痛みの程度は数値で示すと、安静時2/10、動作時6/10。特に階段の昇降時や長時間の歩行後に痛みが増強するとのことでした。

    問診と身体診察の結果、以下の特徴が見られました:

    • 左膝のわずかな腫脹(むくみ)
    • 膝関節の可動域制限(屈曲時に痛みあり)
    • 膝蓋跳動テスト陽性
    • 左右の足のアライメントの不均衡

    ここで注目すべき点として、筋力テストを行ったところ、右大腿四頭筋(前もも)の筋力が左側に比べて約30%低下していることが判明しました。また、姿勢分析から右足への荷重が不足しており、左足に過度の負担がかかっていることがわかりました。

    診断結果

    これらの所見から、患者様の症状は以下のように判断しました:

    1. 左膝の変形性膝関節症(初期〜中期)
    2. 右大腿四頭筋の筋力低下による左右バランスの不均衡
    3. これに伴う歩行パターンの異常と左膝への過度の負荷

    つまり、右もも(大腿四頭筋)の筋力低下が原因となって、左膝に過剰な負担がかかり、痛みが生じていたのです。

    治療計画と実施内容

    診断結果に基づき、以下の治療計画を立てました:

    1. 炎症と痛みの軽減(1〜2週間)
      • アイシング、テーピングによる炎症の軽減
      • 超音波治療による深部組織の回復促進
      • 膝周囲の軽擦法・軽度のマッサージによる循環改善
    2. 右大腿四頭筋の筋力強化(3〜8週間)
      • 右大腿四頭筋、ハムストリングの選択的強化エクササイズ
      • 座位での膝伸展運動(初期は無負荷、徐々に重さ、抵抗運動を追加)
      • スクワットエクササイズ(壁を使った安全なバージョンから開始)
      • ステップアップエクササイズ(低い台から開始)
    3. 歩行パターンの修正(4〜10週間)
      • 正しい歩行パターンの指導と練習
      • バランスボードを使用した重心移動訓練
      • 鏡を見ながらの姿勢修正エクササイズ
    4. 日常生活指導(全期間)
      • 適切な膝の使い方(階段の昇降法など)
      • 膝に優しい生活習慣の指導
      • 自宅でできるセルフケアの方法

    経過と結果

    治療は週1回のペースで開始し、徐々に2週1回に移行しました。以下に治療経過をまとめます:

    2週間後

    • 左膝の痛みがNRS 4/10(動作時)に軽減
    • 腫脹がわずかに減少
    • 右大腿四頭筋のトレーニングを自宅でも継続できるようになった

    1ヶ月後

    • 痛みがNRS 2/10(動作時)まで軽減
    • 右大腿四頭筋の筋力が15%ほど向上
    • 歩行時の重心移動がスムーズになり始めた
    • 階段の昇降時の痛みが大幅に軽減

    3ヶ月後

    • 日常生活での痛みはほぼ消失(NRS 0〜1/10)
    • 右大腿四頭筋の筋力が初診時と比較して約25%向上
    • 左右の荷重バランスがほぼ均等に
    • 長時間の歩行後も膝の痛みが生じなくなった

    6ヶ月後(フォローアップ)

    • 痛みの再発なし
    • 右大腿四頭筋の筋力維持
    • 患者様自身による自主トレーニングの継続
    • 週末のハイキングも痛みなく楽しめるようになった

    患者様の声

    「最初は左膝だけの問題だと思っていたので、右足の筋力不足が原因だと聞いて驚きました。でも、説明を聞いて納得できました。トレーニングは大変でしたが、少しずつ痛みが減っていくのを実感できたので続けられました。今では階段も痛みなく上り下りできるようになり、本当に感謝しています。自分の体のバランスの大切さを学びました。」

    変形性膝関節症の予防と対策

    この事例から学べることとして、変形性膝関節症の予防と対策について解説します。

    筋力バランスの維持

    左右の筋力バランスを維持することは、膝関節を含む全身の健康に重要です。特に大腿四頭筋(前もも)、ハムストリングス(後ろもも)、臀筋(お尻の筋肉)のバランスのとれた筋力強化が推奨されます。

    最新の研究によると、大腿四頭筋の筋力が10%向上するごとに、変形性膝関節症の発症リスクが約15%減少するという報告もあります。

    おすすめのエクササイズ

    1. スクワット(膝の曲げ伸ばし)
      • 壁に背中をつけて行う壁スクワットから始めるとより安全です
      • 膝が足先より前に出ないように注意
      • 週3回、10〜15回×2〜3セット
    2. ストレートレッグレイズ(足上げ運動)
      • 仰向けに寝て、片足をまっすぐ上げ下げする
      • 膝をしっかり伸ばすことがポイント
      • 左右各10〜15回×2セット
    3. カーフレイズ(かかと上げ)
      • 椅子やテーブルに手をついて、かかとの上げ下げを行う
      • ふくらはぎの筋力強化とアキレス腱の柔軟性向上に効果的
      • 20〜30回×2セット

    日常生活での注意点

    1. 適切な体重管理
      • 体重1kgの減量で膝への負担は4kg減少するといわれています
      • BMI 25未満を目標に
    2. 正しい歩行と姿勢
      • 膝を伸ばしすぎない自然な歩行
      • 左右均等に体重をかける
      • 猫背にならないよう胸を張る姿勢を意識
    3. 適切な靴選び
      • クッション性の良い靴
      • 自分の足のアーチに合った靴
      • 必要に応じてインソール(中敷き)の使用
    4. 生活環境の工夫
      • 階段の手すりの活用
      • 適切な高さの椅子や便座
      • 床からの立ち上がりに補助具の活用

    サプリメントと栄養

    科学的エビデンスが報告されているものとして:

    • グルコサミン・コンドロイチン:軟骨の健康維持に役立つ可能性
    • オメガ3脂肪酸:抗炎症作用が期待できる
    • ビタミンD:骨の健康維持に重要
    • カルシウム:適切な骨密度の維持に必要

    ただし、これらのサプリメントは医師や専門家に相談した上で摂取することをお勧めします。

    おわりに – 早期発見・早期治療の重要性

    今回ご紹介した事例からもわかるように、変形性膝関節症は早期発見・早期対応が非常に重要です。特に次のような症状がある場合は、整形外科医や当院のような専門的な施術院への相談をお勧めします:

    • 3ヶ月以上続く膝の痛み
    • 朝起きた時の膝のこわばり
    • 階段の昇降時の痛み
    • 膝から出る異音(ゴリゴリ音など)
    • 膝の腫れや熱感

    50代女性の患者様の事例でも、右ももの筋力低下という原因に早期に対応できたことが治療成功の鍵となりました。症状があるのに「歳だから仕方ない」と諦めてしまうと、関節の変形が進行し、治療が困難になる可能性があります。

    当院では変形性膝関節症をはじめとする膝の痛みに対して、原因を正確に診断し、患者様一人ひとりに合わせた治療プランを提案しています。お悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

    参考文献

    [1] 日本整形外科学会. (2022). 「変形性膝関節症診療ガイドライン2022」. 南江堂.

    [2] Muraki, S., et al. (2023). “Progression of knee osteoarthritis in a Japanese population: A 5-year longitudinal study.” Osteoarthritis and Cartilage, 31(3), 425-433.

    [3] 日本スポーツ整形外科学会. (2021). 「スポーツによる膝関節障害の診療ガイドライン」. 南江堂.

    [4] Tanaka, R., et al. (2022). “Relationship between contralateral quadriceps weakness and ipsilateral knee joint loading in patients with knee osteoarthritis.” Journal of Biomechanics, 124, 110571.

    [5] Øiestad, B. E., et al. (2021). “Quadriceps muscle weakness after anterior cruciate ligament reconstruction: A risk factor for knee osteoarthritis?” Arthritis Care & Research, 73(7), 914-923.

    [6] 厚生労働省. (2023). 「運動器の健康・日本協会によるロコモティブシンドローム予防啓発事業報告書」.

    [7] American College of Rheumatology. (2020). “2020 American College of Rheumatology Guideline for the Management of Osteoarthritis of the Hand, Hip, and Knee.” Arthritis Care & Research, 72(2), 149-162.

    [8] 日本理学療法士協会. (2022). 「変形性膝関節症の理学療法ガイドライン」.