「腕が上がらない」「夜になると痛む」
四十肩・五十肩、その痛みの正体と向き合い方
肩だけを診ても、肩は良くなりません。肩甲骨と背骨、全身のつながりから考える当院のアプローチをご紹介します。
四十肩・五十肩とはどんな状態か
四十肩・五十肩は、医学的には「肩関節周囲炎」と呼ばれる状態を指します。腕を上げる、後ろに回す、服を着替えるといった動作の中で肩に強い痛みが生じ、次第に関節の動く範囲そのものが狭くなっていくのが特徴です。特に夜間、寝返りをうった瞬間や腕の下敷きになったタイミングでズキッとした痛みで目が覚める「夜間痛」に悩まされる方が多く見られます。
肩関節の内部では、関節を包んでいる関節包という袋状の組織が硬く縮こまり、関節唇や腱板といった周囲の組織にも炎症が波及していきます。経過は一般的に、痛みが強く動かすこと自体がつらい「炎症期」、痛みは落ち着くものの関節が硬く動きにくい「拘縮期」、そして徐々に動きが戻ってくる「回復期」という段階をたどるといわれています。ただし、この経過は自然に任せるだけでは長引くことも多く、どの段階にいるかを見極めながら関わり方を変えていくことがとても大切です。
整形外科でのアプローチと当院の考え方の違い
整形外科では、消炎鎮痛剤の処方や注射で炎症を抑えつつ、拘縮を防ぐために「肩を動かしてください」という指導を受けることがよくあります。これは医学的に理にかなった方針である一方、実際にご本人にとっては「動かしてと言われても、痛くて動かせない」というのが正直なところではないでしょうか。無理に腕を上げようとしたり、他人に無理やり動かされたりすると、防御反応として筋肉がさらに緊張し、かえって痛みが強くなってしまうことも少なくありません。
当院では、痛みが強い時期に肩関節そのものを無理に動かすことよりも、まず肩の土台となっている部分に目を向けます。肩は単体で動いているのではなく、肩甲骨や背骨の動きと連動して初めて滑らかに機能する関節だからです。
肩関節と肩甲胸郭関節、連動して動く仕組み
肩を上げるという動作は、上腕骨と肩甲骨の間にある「肩関節(肩甲上腕関節)」だけで行われているわけではありません。肩甲骨自体も胸郭の上を滑るように動いており、この肩甲骨と胸郭の連動を「肩甲胸郭関節」と呼びます。腕を横から真上まで上げていく際、肩関節と肩甲胸郭関節はおおよそ2対1の比率で協調しながら動くとされ、これは肩甲上腕リズムと呼ばれる運動学の基本的な考え方です。
四十肩・五十肩で肩関節の動きが硬くなると、この協調関係が崩れ、本来肩甲骨が担うはずだった動きの負担まで肩関節に集中してしまいます。結果として、肩関節はますます硬く、痛みを出しやすい状態に追い込まれてしまうのです。さらに、肩甲骨の土台である背骨、特に胸椎の伸展や回旋の動きが乏しいと、腕を上げる際に肩関節へのストレスがいっそう大きくなります。
痛みの出ない範囲で行う腱板トレーニング
肩関節を安定させている棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋という4つの筋肉を「腱板(ローテーターカフ)」と呼びます。腱板は肩関節を骨頭の中心にしっかりと引きつけておく役割を担っており、この働きが弱くなると、腕を上げるたびに骨頭が不安定に動いてしまい、周囲の組織に余計なストレスがかかります。
四十肩・五十肩の炎症期には、大きく腕を振り回すような運動は避けるべきですが、痛みの出ない範囲で腱板の働きを軽く引き出しておくことは、むしろ回復期への移行を助けてくれます。当院では、可動域の限界まで攻めるのではなく、「痛みゼロで動かせる範囲」を見極めたうえで、脇を締めた状態での軽い外旋運動など、負担の少ないメニューから段階的に取り入れています。
烏口上腕靭帯やQLSへの超音波治療
肩関節の前方には「烏口上腕靭帯」という靭帯があり、肩甲骨の烏口突起から上腕骨に向かって走行しています。四十肩・五十肩ではこの靭帯が硬く肥厚し、特に腕を外側にひねる動き(外旋)を強く制限する要因になることが知られています。
また、肩関節の後方から脇の下にかけては、小円筋・大円筋・上腕三頭筋長頭に囲まれた「QLS(四角間隙)」と呼ばれるすき間があり、ここには腋窩神経や血管が通っています。この部分の組織が硬くなると、肩の奥のほうにこもるような重だるさや、腕を挙げた際の突っ張り感につながることがあります。
当院では、こうした烏口上腕靭帯やQLS周囲の硬さに対して超音波治療を行い、組織の柔軟性を取り戻すことで、無理なストレッチに頼らずとも可動域が広がりやすい状態を作っていきます。深部の組織にアプローチできることが超音波治療の強みであり、表面的なマッサージだけでは届きにくい部分の緊張を和らげるのに適しています。
肩だけを診ない、という当院の姿勢
四十肩・五十肩は、肩関節そのものの問題として語られがちですが、実際には肩甲骨の動き、背骨の柔軟性、さらには日々の姿勢や生活動作までもが痛みの背景に関わっています。肩だけを見て可動域訓練を行っても、土台となる肩甲胸郭関節や背骨の動きが硬いままでは、根本的な改善にはつながりにくいのです。
当院では、痛みのある肩そのものへの施術はもちろん行いますが、それと同時に肩甲骨の動きやすさ、胸椎の可動性、姿勢のクセまで含めて全身から評価し、一人ひとりの状態に合わせた施術とセルフケアの提案を行っています。「動かして」と言われても動かせずに悩んでいる方こそ、一度、肩以外の視点からもご自身の体を見直してみませんか。
