
体は柔らかいのに背中の奥が痛い方へ
―僧帽筋下部の筋力低下という見落とされがちな原因―
「首を動かしても体を捻っても、動き自体はスムーズ。でも背中の奥がジンワリと痛む」。当院にはこうした訴えで来院される方が少なくありません。しかも面白いことに、比較的お若く運動経験も豊富な方、あるいはヨガやピラティスを長年続けていて柔軟性には自信のある方ほど、この症状に悩まされている印象があります。
可動域に制限がないということは、関節そのものや筋肉の柔軟性には大きな問題がないということです。にもかかわらず痛みが出る。この矛盾を解く鍵が、肩甲骨の内側から背骨にかけて広がる僧帽筋下部という筋肉にあります。
なぜ女性に多いのか
この症状は、当院の患者さんを見る限り女性に多く見られます。理由の一つとして考えられるのが、男性に比べて筋肉量が全体的に少ないという体格的な特徴です。僧帽筋下部は決して大きな筋肉ではありませんが、肩甲骨を正しい位置に保つという極めて重要な仕事を担っています。筋肉量の少なさは、この繊細な役割を果たす筋力そのものの低下につながりやすく、結果として痛みという形で表面化してしまうのです。
また、女性特有の体の特徴として、バストの重みが体の前方にかかりやすいことも一因として考えられます。前方への重みを支えようとすると、肩が前に引かれた状態になりやすく、肩甲骨を後ろに引き寄せて安定させる僧帽筋下部には、普段からより多くの負担がかかっています。こうした日々の負荷の積み重ねが、筋力低下をより表面化させやすくしているのかもしれません。
僧帽筋下部という筋肉について
僧帽筋は上部・中部・下部の3つの部分に分かれており、それぞれ働きが異なります。上部は肩をすくめる動き、中部は肩甲骨を背骨に引き寄せる動きに関わりますが、下部が担っているのは肩甲骨を「下に引き下げながら内側に安定させる」という、いわば土台づくりの役割です。
起始は胸椎の下部あたりから、停止は肩甲棘という肩甲骨の内側の突起にかけて、斜め下方向に走行しています。この走行のおかげで、腕を上げたり体を動かしたりするたびに、肩甲骨が上に持ち上がりすぎず、正しい位置で安定した状態を保てるのです。
実はこの「肩甲骨を正しい位置に留めておく」という仕事ができるのは、僧帽筋下部だけだと言っても過言ではありません。上部や中部だけでは、肩甲骨は上方に引き上げられたまま固定されてしまい、下方への安定を作ることができないのです。この筋肉が弱くなると、肩甲骨はわずかに上方へ、そして外側へと逃げるように位置がずれていきます。動き自体は保たれていても、肩甲骨の土台がぐらついているため、体幹や首を動かすたびに周囲の筋肉や筋膜に余計な負担がかかり、背中の奥の痛みとして感じられるようになります。
「柔軟性があるのに痛い」方に多い理由
当院にいらっしゃる患者さんの傾向として、運動歴のある比較的若い方や、ヨガ・ピラティスの経験者が多いことも興味深い点です。こうした方々は関節可動域が非常に良く、一見すると体に何の問題もないように見えます。しかし柔軟性のトレーニングは、筋肉を伸ばすことには長けていても、僧帽筋下部のような「肩甲骨を安定させるためのインナーマッスル的な筋肉」を鍛える機会が少ない傾向にあります。柔らかい体を、しっかりとした土台なしに動かし続けている状態とも言えるでしょう。可動域が良いからこそ、逆に僧帽筋下部の弱さが表面化しやすいという、一見矛盾したメカニズムが働いているのです。
改善のために大切な2つのアプローチ
この症状の改善には、大きく分けて2つのアプローチが必要です。
一つ目は、僧帽筋下部そのものを鍛えるエクササイズです。ただ筋トレをすれば良いというわけではなく、肩甲骨を正しく下制・内転させる動きを、意識的に丁寧に繰り返すことが重要になります。柔軟性のある方ほど、動きが大きくなりすぎて肩甲骨以外の部位で代償してしまいがちなので、当院では患者さん一人ひとりの体の使い方の癖を見ながら指導しています。
二つ目は、胸椎上部の可動性を高めることです。僧帽筋下部は胸椎から始まる筋肉であるため、胸椎の動きが硬くなっていると、下部僧帽筋が本来の力を発揮しにくくなります。胸椎上部の可動性を取り戻すことで、僧帽筋下部が働きやすい土台を整えていくのです。
全身への波及効果
僧帽筋下部の機能が改善し、肩甲骨が正しい位置に収まるようになると、その効果は背中の痛みだけにとどまりません。肩甲骨が安定することで上背部の姿勢が整い、猫背の改善につながります。猫背が改善されると、それに連動していた骨盤の傾きや股関節への負担も軽減され、股関節の痛みが和らぐケースも少なくありません。さらに、姿勢の連鎖の中で反り腰の傾向も緩和されやすくなるため、反り腰が原因となっていた腰痛の改善にもつながっていきます。一見すると背中だけの問題に見えても、体は全身でつながっているのです。
当院での考え方
可動域に問題がないと、レントゲンや徒手検査だけでは見逃されがちなのがこの僧帽筋下部の筋力低下です。「柔らかいのに痛い」という一見矛盾した訴えの奥には、肩甲骨を支える土台の弱さという明確な理由が隠れています。当院では、表面的な可動域のチェックだけでなく、肩甲骨の位置や筋肉の使われ方まで丁寧に評価したうえで、僧帽筋下部のエクササイズと胸椎上部の可動性改善を組み合わせた施術を行っています。背中の奥の痛みに長年悩まされてきた方も、原因を正しく知ることで改善への道筋が見えてきます。ぜひ一度、当院にご相談ください。
院長 杉田友康
柔道整復師
一会整骨院
〒239-0807 神奈川県横須賀市根岸町5-21-38 奥山ビル1F右
TEL:046-845-9171
診療時間:午前8:30〜12:30/午後15:00〜20:00(水曜・土曜は午前のみ)
休診日:日曜・祝日
駐車場2台完備(近隣の横須賀オートパーキング57・58をご利用ください)
