腱鞘炎の原因・症状・応急処置について

    腱鞘炎とは筋肉の付着部である骨とを繋ぐ腱の周りを包んでいる腱鞘が炎症を起こして、痛みや動かしにくさが症状とし て現れる病態です。

    腱鞘とは腱が通るトンネルのようなもので、指などの動きを円滑にするために腱のルートを 作っています。

    指や手首、肘の使い過ぎで腱と腱鞘に摩擦が起こり炎症、腫れが出現して腱または腱鞘が分厚くなったり硬くなったりします。

    腱または腱鞘が厚くなってしまうと腱が通りづらくなり、痛みや動かしづらさなどの 症状が出現します。

    腱鞘炎は肘(テニス肘)や足(腓骨筋腱炎)など全身いろんな場所で起きる可能性がありますが、特に動きの多い手首や指に発症しやすい傾 向があります。

    起こりやすい腱鞘炎の種類には、調理仕事や現場仕事のように、肘や手首を使い過ぎて起きるドケルバン病やテニス肘が臨床上多く見られます。

    痛みが発生するメカニズム

    例えて言うならば、腱は刀、腱鞘は字のごとく刀をしまう鞘(さや)とイメージしてください。

    腱鞘が腫れたり硬くなって通常より狭まると、腱がスムーズに動かなくなります。

     スムーズに動かなくなることで、腱鞘のトンネルを通過する際に擦れて、腱自体も炎症を起こします。

    ドケルバン病と同じものですか?

    はい。同じ病態です。

    ドケルバン病とは、母指の使い過ぎで起きる腱鞘炎で、出産後期から産後、更年期の女性に多く見られ、徒手検査にはフィンケルシュタイン検査と呼ばれる検査を用います。

    腱鞘炎の重症度

    患者さんの日常生活動作や仕事での痛みと制限によります。

    痛みはあるが生活や仕事をこなしていれば、軽症または中症と考えますが、日常生活が困難、例えば食事の用意が出来ない、タオルを絞れない、手首や肘を捻っただけで痛みが出る場合は重症と当院ではとらえています。

    腱鞘炎がおこりやすい部位とは?

    当院の事例では親指と肘の腱鞘炎に悩まれている方が多くいます。

    親指であればドケルバン病、肘であればテニス肘が有名です。

    腱鞘炎になりやすい人の特徴は?

    同じ動作を繰り返す人、妊娠中や産後、更年期の方に多く見られます。

    妊娠中や更年期に腱鞘炎になりやすくなるのはなぜですか?

    妊婦さんは女性ホルモンであるエストロゲンが増えることによって腱鞘内でむくみが生じて腱鞘への内圧が上がって腱鞘に負荷がかかります。

    産後は妊娠中に増加傾向にあったエストロゲンの分泌が減少し、代わりにもう1つの女性ホルモンであるプロゲステロンが多く分泌されるようになります。

    エストロゲンには、炎症を抑え、腱鞘内の腱の動きの滑らかさを保つ作用があり、プロゲステロンには、出産で開いてしまった子宮や骨盤の収縮を促すなどの作用があります。

    つまりは、

    •  エストロゲンの減少(腱の滑らかさの減少)
    • プロゲステロンの増加(腱鞘の狭窄)

    これが産後の女性に特に多い腱鞘炎の原因と言われています。

    産後の女性に多い腱鞘炎は、ドケルバン病(親指の腱の痛み)がほとんどです。

    反対に更年期の女性はもうエストロゲンは低下し、別の女性ホルモンであるプロゲステロンが増えることによって腱鞘の収縮がおこり、腱の滑りが悪くなって腱鞘に負荷がかかり炎症を起こします。

    エストロゲンの欠乏は、骨、筋肉、血管など、さまざまな器官に影響を及ぼし、骨粗鬆症、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞などの疾患につながります。同様に、腱もエストロゲンの欠乏の影響を受けますので、周産期、更年期の女性の腱鞘炎にエストロゲンが関係していると言われています。

    更年期以降の女性に見られるヘバーデン結節やブシャール結節、ばね指・腱鞘炎、ドケルバン病、手根管症候群はエストロゲンの低下が関与していると考えられています。

    腱鞘炎を放置するリスクとは?

    慢性的な痛みをかばい他の部位が悪くなるリスクがあります。

    例えば、手首の痛みをかばった結果、肘が痛くなった。

    人間の関節は大小合わせ約260あります。一か所が機能しなくなると別の部位で補うことで動作を行います。これを代償作用といいます。

    また、手の腱鞘炎が悪化していくと、指を曲げ伸ばしする際に引っかかるばね指や手の痺れを伴う手根管症候群になる恐れがあります。

    腱鞘炎の治し方【当院のアプローチ】

    当院では腱鞘炎に対しては固定、リハビリ、超音波治療を行います。

    固定に関しては、テーピング、包帯、ルナキャスト(ギブス包帯)を使用します。

    テーピングがかぶれてしまったり、頻度良く交換できない方もいますので、簡易的に使用できる市販のサポーターを勧めることもあります。

    しかし、市販のサポーターは量販品であり、患者さん一人ひとりに合わせた固定とならず隙間やサイズの不一致があり、十分な固定力を得ることが出来ません。

    腱鞘炎の治療では、固定がもっとも大切になります。

    ルナキャストを用いて患者さんに患部の方に合わせたギブス固定が予後を左右すると臨床上感じています。

    どれくらいの期間で治りますか?

    個々によりますが、1~2ヶ月間、安静にすることが出来れば症状は改善されます。

    しかし、日常生活や仕事上、完全に安静にすることはとても難しいので4~6ヶ月かかる患者さんもいらっしゃいます。

    腱鞘炎の予防法

    腱鞘炎の予防には、ストレッチやマッサージが有効です。使い過ぎて疲労が溜まっている筋肉をストレッチをする、もしくは軽くマッサージをする事で腱鞘炎を予防することが出来ます。

    腱鞘炎になったときは温めるべき?冷やすべき?

    腱鞘炎になった初期で炎症がある時(患部が熱っぽい、腫れている)は冷やしてください。

    炎症が引いてきた(熱っぽさがなくなり、腫れが引いてきた)時は今度は温めて下さい。

    腱は筋肉と違い血流が乏しい部位になります。

    冷やし過ぎると血行不良を引き起こしかえって回復が遅れるため、炎症や腫れが引き始めたら、患部を温めるようにしてください。

    腱鞘炎になったときは固定したほうがよいですか?

    はい。固定は必須です。

    当院ではテーピング、包帯、ルナキャスト(ギブス包帯)を用意しています。

    ※テーピングがかぶれてしまう方にはテーピングは使用しません。

    腱鞘炎のときに絶対にやってはいけないことはありますか?

    動かすことです。

    腱鞘炎とは動かし過ぎて、腱鞘が炎症してしまう症状ですから基本は安静、固定、リハビリが第一選択になります。